過去3年の弊社運用マクロファンドの振り返り

2021年8月末で、エニグマ1号ファンド(以下「当ファンド」または単に「ファンド」)の運用を開始してから3年が経過しました。

2024年の日経平均株価は、世界的なAI(人工知能)ビジネスへの期待等を背景に、半導体関連株が牽引するかたちで右肩上がりに上昇し、バブル後最高値を更新して7/11には42,000円を突破しました。しかし一転日本の金融政策の転換や米国の景気減速懸念等を背景に、7/12~8/5にかけて、8/5の1日過去最大の下落幅を含めて25%超下落した後は、8/6~8月末にかけて、8/6の1日過去最大の上げ幅を含めて20%超上昇するという、歴史的な乱高下相場となりました。

昨年、ファンドの過去2年の運用の振り返りをして以降、更なるファンドの運用改善に継続的に取り組んだことで、当ファンドは、このような環境下において着実にリターンを獲得できました。

昨年の過去2年の振り返りと同様に、今年も過去3年(2021年8月10日~2024年8月31日、以下同様の意味で使用)のファンドの運用を振り返りたいと思います。

運用実績の振り返り

当ファンドの過去3年の運用実績は、ファンド費用控除後で累積トータル・リターン57.93%(年率15.98%)、シャープ・レシオ1.19となり、トータル・リターンにおいては、代表的な市場ベンチマークである配当込みTOPIXをアウトパフォームしました(図表1)。

また、当ファンドのリターンとインデックス(日経225(日経平均株価)、TOPIX)のリターンとの相関(関係性)は共に0.2未満と極めて低く、これは当ファンドが日本の株式市場全体のトレンドとほぼ関係無く、独自のリターンを実現できていると言えます。

なお、シャープ・レシオは、月次リターンに基づいて算出しているため、24年8月単月のトータル・リターンが+16.58%と非常に大きかった(計算上リスクが大きくなった)ことで値が頭打ちとなり、配当込みTOPIXの値を若干下回りました。しかし当ファンドの概ね半分程度の期間はリスクを低く抑えている(詳細は後述)点を考慮すると、今後は月次リターンベースのシャープ・レシオも配当込みTOPIXを上回るものと期待されます 1

図表1. 過去3年のファンドの運用実績(配当込みTOPIXとの比較)

1 参考として、過去3年の当ファンドの日次リターンベースのシャープ・レシオは1.14であり、配当込みTOPIXの0.78を大きく上回っています(いずれも弊社試算値)。

運用戦略の振り返り

以降、ファンドの運用戦略がどのように機能したかについて振り返るため、冒頭に改めて運用戦略を記載します。

当ファンドは、重要なマクロイベントが発生した際、機械学習モデルによる売買判定に基づき、日経225先物のポジション(買い持ち/売り持ち)を切り替える運用戦略をとっています(買いか売りかを判定するモデルを、以降「リターンモデル」と記載)。また同時に、マクロイベントを基に理論価格レンジを算出します(理論価格レンジを算出するモデルを、以下「水準モデル」と記載)。リターンモデルと水準モデルを用いて、レバレッジを+1倍~-1倍(ファンドの運用資産と同額の日経225先物の買い持ち~ファンドの運用資産と同額の日経225先物の売り持ち)の範囲で運用することでリスクを管理しています(詳細は当ファンドのコンセプト及び運用戦略の詳細を参照)。

まず過去3年のファンドのポジションの日次推移を図表2にて示します。緑色の区間では買い持ち、赤色の区間では売り持ちのポジションをとったことを表します。なお、緑色と赤色のグラフの高さが変化する点はレバレッジの縮小/拡大を意味しています。これによると買いポジションだけではなく、積極的に売りポジションもとっていることを理解いただけると思います。

図表2. ポジション及びレバレッジの推移

次に買いポジションと売りポジションの期間を数値化したものが、図表3となり、その割合は概ね半々であったことが確認できます。

図表3. ポジションの期間割合

更に、買いポジションと売りポジションの期間をより詳細にレバレッジ別に示したものが図表4となります。 2023年前半までは、レバレッジを±0.25倍と±1倍の4パターンに限定していましたが、運用モデル(リターンモデル及び水準モデル)の改良に伴い、局面に応じてレバレッジをより柔軟に変化させることで、ファンドの中長期的なパフォーマンスを向上させられる余地があることが定量的に確認できたため、2023年後半より、レバレッジのパターンを増やしました。

買い持ち/売り持ちいずれの場合も、概ね半分程度の期間はレバレッジを下げて(ポジションを縮小して)リスクを抑制していたことが確認できます。

また、過去3年のレバレッジを、そのレバレッジを維持した期間の割合で平均した値は0.03(ほぼゼロ)であり、これは買いポジションと売りポジションについて、期間とポジションの大きさも含めて総合的に判断すると、いずれに偏ることなくファンドを運用できたことを示しています。このことが、当ファンドと日経平均株価やTOPIXとの相関が低く(株式市場全体のトレンドとほぼ関係無く)、独自のリターンを実現できたことに大きく寄与していると考えられます。

図表4. ポジションの期間割合(レバレッジ別内訳)

最後に、モデルの正解率についてですが、過去3年のリターンモデルの売買判定の正解率は56.3%となりました2(図表5)。前回の過去2年の振り返り時点での正解率は53.5%でしたので、こちらも着実にモデルの改良を進めることができました。

図表5. 売買判定の正解率(リターンモデル)

2 マクロイベントが発生した際のリターンモデルによる売買判定と、次のマクロイベントが発生するまでの日経225先物の実際の価格変動の方向が一致した場合を”一致”、一致しなかった場合を”不一致”としてカウント

総括と今後に向けて

過去3年のファンド運用の総括は以下の通りとなります。

・代表的な市場ベンチマークである配当込み株価指数(配当込みTOPIX)よりも高いリターンを実現できた。

・月次リターンベースで算出されるシャープ・レシオは、24年8月の単月リターン(+16.58%)が非常に大きかった影響で配当込みTOPIXを若干下回ったものの、レバレッジを低く抑えている期間が半分程度を占める当ファンドの特徴を考慮すると、今後は配当込みTOPIXの値を上回って推移することが期待される。

・リターンモデル及び水準モデルの改良に伴い、2023年後半から局面に応じてレバレッジを柔軟に変化させる戦略に変更した。

・買いポジションと売りポジションについて、過去3年の平均ポジション(レバレッジ)はほぼ0であった。これにより売り買いのいずれに偏ることなくファンド運用することで、日本の株式市場全体のトレンドとほぼ関係無く、独自のリターンを実現することができた。

・リターンモデルの売買判定の正解率は56.3%であり、前回の過去2年の振り返り時点での正解率(53.5%)より向上し、着実にモデルを改良することができた。

以上の3年間の仮説・検証結果をしっかり踏まえた上で、今後より一層のリターンモデル・水準モデルの精度向上に努めていきたいと考えています。